非拘束名簿式

非拘束名簿式(ひこうそくめいぼしき)とは、選挙における比例代表制において比例名簿の順位を決めない方式のこと。

議席を得た政党内での当選者は、各候補者の個人名での得票数により決定される。

概要

日本では2001年参議院議員通常選挙から参議院比例区で採用されている。それまでの参院選比例代表は、拘束名簿式といって、有権者は政党名でのみ投票でき、当選者はあらかじめ政党が決めた順位にしたがって決まっていた。これに対し、非拘束名簿式では、有権者は政党または立候補者のいずれにも投票することができる。個人名が書かれた票は、その者が所属する政党の得票となる。名簿順位は政党があらかじめ決めることはできず、個人票の得票数に応じて順位付けされ、当選者が決定する。獲得議席数に比して個人票の人数が足りない場合、あるいは政党内の議席獲得可能な候補者のうち順位が最も下の者の得票数が同数の場合、当選者はくじ引きで決まる。

事実上の全国区制の復活となり、候補者の選挙費用の増大や全国的な組織を持つ候補や知名度が高いタレント政治家の増加なども指摘する声もある。

全国的な組織に支援されて全国で票を集める候補を組織内候補、選挙区で当選したことがある元衆議院議員の候補や都道府県知事経験がある候補など、地元の政治家として知名度を生かして地元の都道府県を中心に票を集める候補をご当地候補と呼ぶ。参議院選挙は半数改選のため、参議院比例区で組織内候補を当選させた場合は、3年後の参議院選挙でもう一人の別の組織内候補を擁立することになる。

2004年1月14日に最高裁判所大法廷は非拘束名簿式に合憲判決を出した(同日に参院選の一票の格差についても合憲判決が出ている)。また、2013年参議院選挙において、非拘束名簿式の選挙制度は直接選挙に反して違憲であるとして、選挙の無効を求めて弁護士が訴訟を起こしたが、2014年11月10日最高裁判所は非拘束名簿式は合憲と判断し、原告の主張を退けた[1]

参議院選挙区(旧地方区)における一票の格差の問題から2つの参議院合同選挙区が創設されたことにより、参議院に選出されない可能性がある県の代表者を参議院に確実に輩出することを意図した自民党の意向が国会で反映されたことにより、2019年7月第25回参議院選挙から参議院比例区で政党等の判断で拘束名簿式の「特定枠」として上位に設定することが可能となり(なお、特定枠に掲載された候補者は候補者名を冠した選挙運動を行うことができず、特定枠に掲載された候補者は政党票としてカウントされる)、これによって参議院比例区では拘束名簿式と非拘束名簿式の両方が混合することになる。

利点

拘束名簿式では、名簿順位の決定は、各政党の任意であるため、有権者はその名簿の作成に関わることができず、有権者が当選させたい者が比例名簿に登載されている場合、その者を当選させるには所属している政党名を書くしかない。しかし、その者の名簿順位が低く、当選に及ばなかった場合、有権者の意図とは異なる候補者が当選することとなってしまう。非拘束名簿式の場合、有権者が好きな候補者を自由に選べるので、名簿順位の決定に有権者が参加することができる。

比例代表制の導入により、かつての全国区制のような当選して取り過ぎて余った票(広義の死票)が少なくなるなどがある。

欠点

この制度では、個人名で書かれた票はその所属政党の得票に反映されるため、個人への票が他者への票の横流しになるという点がある。大量得票を獲得できるタレントやたくさんの組織票がある候補者がいる政党では、その者の得票によって他の得票数の少ない候補者を助けることが可能となる。そのため、高得票数で当選した議員は所属政党において政治的影響力を増大させる傾向がある。

法案の国会審議では、大量の個人名得票を獲得したタレント等の個人名得票が同一政党の他の候補に横流しされることが懸念された。しかし、実際の得票を見ると、公明党以外の主要政党では、多くの有権者が政党名で投票するため、個人名得票だけで当選ラインを超えて他者への票の横流しになった当選者は、7回の選挙(2001年、2004年、2007年、2010年、2013年、2016年、2019年)の延べ335人の当選者(特定枠を除く。)中3人しかおらず、直近5回の選挙では発生していない。

また、2019年7月投開票の第25回参議院議員通常選挙では、れいわ新選組代表の山本太郎候補が、個人名得票で991,756票を集め、当選ラインの932,231票を上回りながら、同党の特定枠候補2人より下位に位置付けられたため、落選した。

逆に、大量の政党名得票により、個人名得票が全国的にわずかでも当選する候補者や同一政党内のわずかな個人名得票差で当選する候補者が続出している(2016年の日本共産党は、当選した同党内個人名得票数5位の武田良介と落選した同6位の奥田智子の差は、わずか258票差)。また、逆に多くの落選者の個人名得票を積み重ねて、その政党の名簿の当選者の増加に資する例もある(2010年の民主党、自由民主党等)。

拘束名簿式の時には、学者等の有識者や市民運動家等が順位上位で当選することがあったが、非拘束名簿式ではそのような候補は個人名得票があまり見込めず厳しい結果に終わっており、業界団体、宗教団体、労働組合等の組織票を持つ候補に有利な結果となっている。

議席はあくまでも政党単位で配分されるため、個人名でかなりの票を獲得した候補者であっても、政党全体としての得票が少なく、議席が配分されないと落選してしまうこともある。他方で、政党名での得票が多かった政党の候補者は、少ない得票でも当選することができる。個人での得票という観点から見れば、有権者の意思が反映されず、不公平であるという見方もできる。また、有権者がある候補者を当選させたかったとしても、それは必ずしもその所属政党への支持を意味するわけではない。候補者個人は支持するが、その政党は支持したくないということもあり得るのであり、そのような有権者にとってはジレンマに悩むことになる。その一方で、比例区はまず政党を選ぶ選挙であり、個人票は政党内における順位決定という意味合いしかなく、政党外の候補との個人票の得票を比較することには意味を成さないとの意見もある。

また全国一選挙区で候補者が乱立しているため、有権者にとって候補者との距離を遠く感じさせる選挙である。候補者にとっても選挙活動が「雲をつかむような選挙」と表現されることもあり、組織票が少なく知名度による浮動票の取り込みを期待している候補にはそれが顕著となりやすい。旧全国区同様に候補者数が乱立しているが、旧全国区と異なり政党票が認められていることから旧全国区と比較すると候補者個人に対する得票が少なくなっており、ある特定の候補者について自治体によっては得票数0と計算されたことに当該候補者に投票した有権者が票の数え直しを求めて選挙結果無効を求めて裁判所に提訴する事例もある[2]

経緯

2000年久世公堯金融再生委員長が大手マンション会社から党費を肩代わりしてもらい、自民党比例名簿上位に登載して当選していたことが発覚。そのため、参議院選挙では比例名簿の順位を政党が決定権を持つ比例区における厳正拘束名簿式を非拘束名簿式に改正する動きが出てきた。野党は非拘束名簿式の導入は党利党略として反発。参議院では野党が委員会への名簿の提出を拒否する審議拒否に出た。

そのため、斎藤十朗参議院議長が野党の了承なく、議長権限で野党から委員を選出する。それでもなお、与野党間の対立が増したため、斎藤議長は比例改選定数において拘束名簿式と非拘束名簿式を半分にする混同案を斡旋案として提案。しかし、この提案には野党ばかりではなく、与党も難色を示した。斎藤は斡旋に失敗したため、議長を辞任。井上裕新議長の下、与党ペースで審議が進み、10月26日に可決成立した。

記録

以下では日本の参議院選挙における記録を記載する。

最多得票当選者

年別の最多得票当選者
1位2位3位4位5位
192001年舛添要一自民1,588,262山本香苗公明1,287,549木庭健太郎公明800,563遠山清彦公明794,445草川昭三公明699,069
202004年浜四津敏子公明1,822,283弘友和夫公明996,188谷合正明公明835,983荒木清寛公明816,115風間昶公明787,886
212007年山本香苗公明1,027,546木庭健太郎公明706,993山本博司公明619,837遠山清彦公明612,972渡辺孝男公明558,197
222010年秋野公造公明836,120長沢広明公明630,775横山信一公明579,793谷合正明公明544,217浜田昌良公明503,177
232013年山本香苗公明996,959平木大作公明770,682河野義博公明703,637山本博司公明592,814若松謙維公明577,951
242016年長沢広明公明942,266秋野公造公明612,068横山信一公明606,889熊野正士公明605,223徳茂雅之自民521,060
252019年柘植芳文自民600,189山本香苗公明594,289山田太郎自民540,077山本博司公明471,759若松謙維公明342,356
最多得票当選者
名前選挙年政党得票数
1浜四津敏子2004年公明党1,822,283
2舛添要一2001年自民党1,588,262
3山本香苗2001年公明党1,287,549
4弘友和夫2004年公明党996,188
5長沢広明2016年公明党942,266
6秋野公造2010年公明党836,120
7谷合正明2004年公明党835,983
8荒木清寛2004年公明党816,115
9木庭健太郎2004年公明党800,563
10遠山清彦2001年公明党794,445
◎…個人名票だけで当選ラインに達した者

【参考】当選ライン(小数点第3位以下切り上げ)

第19回(2001年)1,023,475.500
第20回(2004年)1,077,658.125
第21回(2007年)1,109,332.732
第22回(2010年)1,121,367.578
第23回(2013年)1,019,173.577
第24回(2016年)1,058,673.067
第25回(2019年)932,230.165

最少得票当選者

年別の最少得票当選者
1位2位3位4位5位
192001年当初吉川春子共産26,386井上哲士共産32,485筆坂秀世共産40,571大江康弘自由43,801紙智子共産56,999
最終小林美恵子共産21,246吉川春子共産26,386井上哲士共産32,485筆坂秀世共産40,571大江康弘自由43,801
202004年鰐淵洋子公明17,173浜田昌良公明33,310大門実紀史共産73,631仁比聡平共産73,662小池晃共産105,481
212007年当初山下芳生共産55,913山本孝史民主67,612大江康弘民主68,973室井邦彦民主72,544紙智子共産76,878
最終平山誠新党日本11,475山村明嗣民主34,395尾辻かな子民主38,229草川昭三※公明38,792玉置一弥民主43,291
222010年当初桜内文城みんな37,191小熊慎司みんな37,222小野次郎みんな43,012大門実紀史共産43,897田村智子共産45,669
最終田中茂みんな30,207山田太郎みんな30,663藤巻幸大みんな32,161真山勇一みんな36,599桜内文城みんな37,191
232013年新妻秀規公明26,044室井邦彦維新32,107中野正志維新32,926藤巻健史維新33,237仁比聡平共産39,768
242016年当初宮崎勝公明18,571武田良介共産23,938岩渕友共産31,099大門実紀史共産33,078田村智子共産49,113
途中竹内真二公明7,489宮崎勝公明18,571武田良介共産23,938岩渕友共産31,099大門実紀史共産33,078
252019年当初塩田博昭公明15,178紙智子共産34,696井上哲士共産42,982山下芳生共産48,932柳ヶ瀬裕文維新53,086
途中浜田聡N国9,308塩田博昭公明15,178紙智子共産34,696井上哲士共産42,982山下芳生共産48,932
最少得票当選者
名前選挙年政党得票数
1竹内真二2016年公明党7,489
2浜田聡2019年N国党9,308
3平山誠2007年新党日本11,475
4塩田博昭2019年公明党15,178
5鰐淵洋子2004年公明党17,173
6宮崎勝2016年公明党18,571
7小林美恵子2001年共産党21,246
8武田良介2016年共産党23,938
9新妻秀規2013年公明党26,044
10吉川春子2001年共産党26,386

※…比例当選議員の辞職、死去による繰り上げ当選

最多得票落選者

年別の最多得票落選者
1位2位3位4位5位
192001年当初白川勝彦自由と希望309,994青島幸男二院クラブ284,788ツルネン・マルテイ民主159,920柳沢光美民主158,355高見裕一民主151,563
最終白川勝彦自由と希望309,994青島幸男二院クラブ284,788柳沢光美民主158,355高見裕一民主151,563幸田シャーミン民主139,125
202004年当初中村敦夫みどりの会議204,712神取忍自民123,521菅野哲雄社民118,912尾身朝子自民118,577日出英輔自民118,540
最終中村敦夫みどりの会議204,712菅野哲雄社民118,912尾身朝子自民118,577日出英輔自民118,540横内正明自民113,968
212007年当初武見敬三自民186,616阿達雅志自民170,090藤井基之自民168,185松原まなみ自民167,593大高衛自民161,277
最終阿達雅志自民170,090藤井基之自民168,185松原まなみ自民167,593大高衛自民161,277上野公成自民159,967
222010年当初浮島とも子公明445,068長谷川憲正国民新406,587中田宏創新122,978中畑清たちあがれ111,597堀内恒夫自民101,840
最終浮島とも子公明445,068長谷川憲正国民新406,587中田宏創新122,978中畑清たちあがれ111,597臼井正人自民100,282
232013年三宅洋平緑の党176,970川合孝典民主138,830石井一民主123,355定光克之民主120,782山城博治社民112,641
242016年山田太郎新党改革291,188吉田忠智社民153,197田城郁民進113,571藤川慎一民進113,045轟木利治民進108,522
252019年山本太郎れいわ新選組991,756石上俊雄国民民主192,586田中久弥国民民主143,467比嘉奈津美自民114,596中田宏☆自民112,581
最多得票落選者
名前選挙年政党得票数
1山本太郎2019年れいわ新選組991,756
2浮島とも子2010年公明党445,068
3長谷川憲正2010年国民新党406,587
4白川勝彦2001年自由と希望309,994
5山田太郎2016年新党改革291,188
6青島幸男2001年二院クラブ284,788
7中村敦夫2004年みどりの会議204,712
8石上俊雄2019年国民民主党192,586
9武見敬三2007年自民党186,616
10三宅洋平2013年緑の党176,970

※…後に比例当選議員の辞職、死去によって繰り上げ当選。
☆…特定枠候補が優先されたため落選。

脚注

  1. 非拘束名簿式は「合憲」 最高裁、弁護士らの上告退ける (2014年11月10日). 2014年11月10日閲覧。
  2. 「得票0に疑義」と提訴 参院選でJAM組合員 産経新聞 2016年8月9日

関連項目

This article is issued from Wikipedia. The text is licensed under Creative Commons - Attribution - Sharealike. Additional terms may apply for the media files.