金唐革紙

金唐革紙(きんからかわし、Japanese leather paper)もしくは金唐紙(きんからかみ)は日本の伝統工芸品である。和紙に金属箔(金箔銀箔箔等)をはり、版木に当てて凹凸文様を打ち出し、彩色をほどこし、全てを手作りで製作する高級壁紙である。金属箔の光沢と、華麗な色彩が建物の室内を豪華絢爛に彩る。現在の金唐革紙復元製作は日本画家・絵本画家の後藤仁を中心に行われた。

概要

歴史

欧米の皮革工芸品を「金唐革(きんからかわ)」(en)といい、宮殿や市庁舎などの室内を飾る高級壁装材であった。金唐革は、唐草や花鳥などの文様を型を使って革の表面に浮き上がらせ、金泥その他で彩色したものである[1]江戸時代前期の17世紀半ばに、オランダ経由でスペイン製の「金唐革」が輸入されて人気を博したが、鎖国を行っていたためにこれは極めて貴重かつ入手困難な品物であった。そこで、和紙を素材とした代用品の製作が日本で行われた結果、1684年に伊勢で完成した製品が「金唐革紙」(「擬革紙(ぎかくし)」ともいう。) の始まりである[2]

明治時代には、大蔵省印刷局が中心となって製造・輸出され、ウィーン万国博覧会パリ万国博覧会 (1867年)など各国の博覧会で好評となり、欧米の建築物(バッキンガム宮殿等)に使用された[3]。国内では、鹿鳴館等の明治の洋風建築に用いられたが、その多くは現在消滅し、現存するのは数ヶ所だけという貴重な文化財になっている。昭和初期には徐々に衰退し、昭和中期以降その製作技術は完全に途絶えていた。

昭和後期より現在

1985年、旧日本郵船小樽支店(重要文化財小樽市)の復元事業で、東京文化財研究所の助言を受けて金唐革紙研究所が新設され、現代版「金唐革紙」の復元製作が行われた。しかし、当初は本格的な技術者がおらず、製品品質・製作量は低いものであった。(「金唐紙(きんからかみ)」とは金唐革紙研究所製品にのみ用いる、研究所によって新しく考えられた造語である。)

1995年、入船山記念館〔旧呉鎮守府司令長官官舎〕(重要文化財、呉市)の復元事業より、当時、東京藝術大学日本画専攻在学中の学生であった20歳代前半の後藤仁を中心に、粕谷修朗、柳楽雄平、宮澤利行らが研究所に加わり、彼らによって多くの改良が重ねられ、製品の質・量ともに向上する。この時より後藤仁らが企画立案し、製作するという本格的な体制が整う[4][5]

以後10年余にわたり後藤が製作の中心的役割を果たし、1999年に移情閣孫文記念館〕(重要文化財、神戸市)、2002年に旧岩崎家住宅(重要文化財、台東区)等の主要な復元を行う[6][7][8]。その間、紙の博物館(東京都王子)、呉市立美術館(広島県呉市)、旧岩崎邸庭園、入船山記念館、フェルケール博物館(静岡県)、大英博物館、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館(イギリス)等で「金唐革紙展」を開催して、その普及に努める[9]。これらの功績により、研究所職員が2005年、選定保存技術(文化財の修理復元等のために必要な伝統的技術として、文部科学大臣が選定するもの。)の保持者に認定される。

現在、研究所は本格的な製作体制は終了して、粕谷修朗、柳楽雄平、宮澤利行らは各々の日本画制作活動等に戻る。後藤仁は2006年に研究所をはなれ、金唐革紙製作技術を日本画にも取り入れ日本画家絵本画家として活動するとともに、「金唐革紙保存会」を主宰して展覧会等での金唐革紙の紹介や製作技術保存にも尽力し、必要があれば製作出来る体制を維持している[10]。現在、金唐革紙製作全般にわたる本格的な製作技術を有しており、現役で製作可能なのは後藤仁のみとなっている[11]

金唐革紙の現存する建築物

明治から昭和初期の金唐革紙(旧製品)が現存する主な建築物。および、新しく復元製作された金唐革紙(復元品)がはられた建築物。

(※「重要文化財」とあるものは、文化財保護法に基づき、国が指定した重要文化財を指す。)
  • 入船山記念館(重要文化財)」広島県呉市 (旧製品・復元品)
  • 旧岩崎家住宅(重要文化財)」東京都台東区 (旧製品・復元品)
  • 移情閣〔孫文記念館〕(重要文化財)」兵庫県神戸市 (旧製品・復元品)
  • 「旧日本郵船小樽支店(重要文化財)」北海道小樽市 (旧製品・復元品)
  • 「旧林家住宅(重要文化財)」長野県岡谷市 (旧製品・復元品)
  • 国会議事堂  参議院内閣総務官室・秘書官室」東京都 (旧製品のみ)
  • 旧第五十九銀行本店本館青森銀行記念館〕(重要文化財)」青森県弘前市 (旧製品のみ)
  • 砺波郷土資料館(市指定文化財)」富山県砺波市(旧製品のみ)


  • その他、「紙の博物館」(東京都王子)には旧製品、復元品が収蔵されている。

現在の金唐革紙製作者実績一覧

  • 1985年 旧日本郵船小樽支店 〔金唐革紙1種、数枚復元製作(1枚の大きさは約90×180cm)〕
「企画・製作」研究所職員 数名、「企画・製作協力」東京文化財研究所研究員
  • 1994年 旧林家住宅 〔金唐革紙1種、数枚復元製作〕
「企画・製作・営業」研究所職員 数名
  • 1995年 入船山記念館 〔金唐革紙4種、約150枚復元製作〕
「製作主任」後藤仁
「入船山記念館」製作者企画版木修復箔押し打ち込みやすり仕上げワニス塗り手彩色経理・営業
後藤仁 40% 100% 90% 90% 100% 90% 80% 0
永楽陽一 0 0 0 10% 0 0 0 0
宍道圭 0 0 0 5% 0 0 0 0
東京藝術大学日本画専攻 学生 10数名 0 0 0 0 0 0 40% 0
研究所職員(上田尚、上田鈴子) 60% 0 5% 10% 0 10% 5% 100%
(%は、金唐紙研究所作業記録に基づいて、製作量・時間から割り出した、作業全体に対する貢献度。)
  • 1999年 移情閣 〔金唐革紙1種、約400枚復元製作〕
「製作主任」後藤仁
「移情閣」製作者企画版木修復箔押し打ち込みワニス塗り手彩色シルクスクリーン
彩色
現地貼り込み経理・営業
後藤仁 40% 100% 90% 90% 90% 70% 80% 80% 0
柳楽雄平 30% 0 90% 90% 90% 70% 80% 0 0
粕谷修朗 30% 0 90% 90% 90% 70% 80% 0 0
宮澤利行 0 0 0 30% 5% 0 70% 0 0
東京藝術大学日本画専攻 学生 数名 0 0 0 0 0 30% 0 0 0
研究所職員 50% 0 5% 5% 10% 5% 0 30% 100%
  • 2002年 旧岩崎家住宅 〔金唐革紙2種、約150枚復元製作〕
「製作主任」後藤仁
「旧岩崎家住宅」製作者企画版木修復箔押し打ち込みワニス塗り手彩色シルクスクリーン彩色経理・営業
後藤仁 60% 100% 100% 100% 100% 30% 100% 0
柳楽雄平 0 0 0 5% 0 0 10% 0
研究所職員 50% 0 0 5% 0 0 0 100%


  • その他、「金唐革紙製品(金唐革紙見本帳、屏風・衝立・額製品等)」の製作は後藤仁が担当。「金唐革紙展」の展示製品製作・会場設営・製作実演は後藤仁が担当。
  • 現在までに、金唐革紙の最も多くの実質的製作(箔押し、打ち込み、彩色等)にあたったのは後藤仁(全復元製品の約85%)、柳楽雄平、粕谷修朗(約50%)、宮澤利行(約20%)、その他の者(5%未満)の順となる。したがって、金唐革紙の完全な製作知識・技術を保有しているのは後藤仁といえる[12]

金唐革紙の製作工程

  1. 「合紙」 手すき楮紙三椏紙を合紙して、原紙を作成する。
  2. 「箔押し」 原紙に、金・銀・箔などの金属箔を押す。
  3. 「打ち込み」 文様が彫刻された版木(桜材)に、水で湿らせた原紙をあて、紙の裏より豚毛の強靭な刷毛で丹念に打ち込み、凹凸文様を出す。
  4. 「ワニス塗り」 錫箔の場合のみ、天然ワニスを塗って金色を出す。
  5. 「彩色」 ・油絵具等で、丁寧に手塗り彩色をする。種類によってはシルクスクリーンで彩色したり、紙やすりでやすりがけをして古色をつける。

この製作技術は大変難しく長い経験を要する。現在は版木製作以外の全ての工程を同一人物が行うので、一日に刷毛で打ち込む事6時間以上という体力と、箔押し・精緻な彩色という、手先の器用さも必要となる。版木は明治・大正期に製作されたものを用いる場合が多いが、旧来の金唐革紙よりデザインをおこし新しく版木を製作する場合もある。

現在製作されてきた金唐革紙は全て旧製品のデザインによる「復元製品」で、新しいデザインによるオリジナル作品の製作は需要が無くて今まで行われていない[13]


関連項目

脚注

  1. 図解入門業界研究最新インテリア業界の動向とカラクリがよーくわかる本本田榮二、秀和システム, 2010
  2. David E. Hussey, Margaret Ponsonby,『Buying for the home: shopping for the domestic from the seventeenth century to the present』, 91-116 pages, Ashgate Publishing, Ltd., 2008. 
  3. 菅 靖子、『日本の「美術製造品」を取り扱ったイギリス系商社』、Bulletin of Japanese Society for Science of Design, 51(3), pp.11-20,
  4. 『広島県重要文化財旧呉鎮守府司令長官官舎修理工事報告書』1996年3月、財団法人文化財建造物保存技術協会
  5. 『館報入船山 第14号』2003年2月1日、呉市入船山記念館
  6. 『孫中山記念館(移情閣)概要』2001年、財団法人孫中山記念会
  7. 『移情閣 復原への記録』2000年4月、兵庫県・孫中山記念館
  8. 『旧岩崎邸庭園』2003年11月1日、財団法人東京都公園協会
  9. 『静岡新聞』(金唐革紙展特集記事)2005年9月24日朝刊
  10. 『月刊ボザール』(後藤仁特集)2005年12月336号、社団法人美術愛好会サロン・デ・ボザール
  11. 後藤仁・元金唐紙研究所研究員編、『正伝 金唐革紙の製作について』2013年1月、金唐革紙保存会
  12. 後藤仁・元金唐紙研究所研究員編、『正伝 金唐革紙の製作について』2013年1月、金唐革紙保存会
  13. 後藤仁・元金唐紙研究所研究員編、『正伝 金唐革紙の製作について』2013年1月、金唐革紙保存会

外部リンク



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