卵菌

卵菌(らんきん)は、不等毛類に属する原生生物の一つ。近縁のサカゲツボカビ類とともに菌類様の外見を持つものが多い。

卵菌
ジャガイモ疫病菌 Phytophthora infestans
分類
ドメ
イン
: 真核生物 Eukaryota
: 不等毛類 Heterokonta
: 卵菌門 Oomycota
下位分類
本文参照

化石記録としては、石炭紀の地層からヒカゲノカズラ類の内部寄生者、Combresomyces 属の化石が発見されているほか[1]白亜紀琥珀からも卵菌類と考えられる構造が見つかっている[2]

系統

かつてはツボカビ類・接合菌類などとともに鞭毛菌類あるいは藻菌類と呼ばれた。これは、菌類が退化した藻類であるとする、菌類の藻類起源説に立ち、藻類に近いものとしてこれらの類が考えられたことに由来する。特に、卵菌類と黄緑藻類フシナシミドロの類似が指摘されたこともある。その後、細胞壁や鞭毛の構造が明らかに異なることから、菌類が独立の界と見なされるようになり、藻類起源説は力を失った。しかし現在でも植物病理学など応用分野で便宜的に藻菌や鞭毛菌と呼ばれることがある。

先にも述べたように、この類はかつては菌類と見なされていたが、現在は別系統と考えられている。鞭毛の構造等から、褐藻や珪藻などの不等毛藻類などと共通の系統に属するものと見なされ、ストラメノパイルなどの群に属させる。この群にはいくつかの藻類の他に、菌類と見なされたこともあるサカゲカビ類やラビリンチュラ類も含まれている。しかし、それらと卵菌類の系統関係については明らかではない。特にサカゲカビ類はよく似た部分が多いが、近縁であるとの判断は必ずしも出されていない。いずれにせよ、藻類に近縁であるからといって、これらの菌類的生物が藻類に由来したものとは考えられていない。

卵菌とサカゲカビはいずれも菌類的生物でありながら、菌類とは系統を異にする。この二者は、系統的には近いものとの判断から、これを一つにまとめる考えもある。この場合、二つをまとめる名称として、二毛菌という名称を使う。

麻の実から育ったミズカビ類のコロニー
ほとんどはAchlya sp.

構造と生活環

栄養体は隔壁のない単あるいは多核体葉状体で、多くの場合菌類菌糸体によく似た形態に収斂進化を起こしている。特に隔壁を欠いている点は菌類の中でもツボカビ類や接合菌と類似している。他の卵菌に寄生するフクロカビモドキなどの葉状体は単純な袋状で菌糸状の形はとらない。葉状体は動植物遺体上で有機物を分解したり、他の生物寄生して生活する。細胞壁の主成分はセルロースで、菌類(キチン)と異なる。

遊走細胞は同じ不等毛類褐藻などと同様で、マスチゴネマを持つ羽型鞭毛と鞭型鞭毛をセットで持つ。葉状体は複相(2n)で、無性生殖に際しては菌糸様の葉状体の先端に胞子嚢を形成し、この内部の原形質が分割されて多数の遊走子を生じ、これが泳ぎ出て宿主に到達する。葉状体に形成された一次型遊走子はクロミスタ界の中でも真眼点藻類の遊走細胞と同様に2本の鞭毛を細胞の前端に持つが、一次型遊走子がシスト化してから脱皮して生じる二次型遊走子は褐藻などと同様にソラマメ型の細胞の側面から前方に羽型鞭毛が、後方に鞭型鞭毛が伸びる。

ワタカビ属の1種(Achlya sp.)の卵胞子

有性生殖は、配偶子が独立せず、配偶子嚢の状態で接合する配偶子嚢接合という形を取る。まず葉状体に多核の造精器生卵器が互いに接して形成され、それぞれの内部で減数分裂が行われる。造精器から生卵器に受精管が伸び、単相(n)の配偶子核が移送されると生卵器内に受精によって生じた厚壁の卵胞子が1-40個形成される。この卵胞子を形成する有性生殖により卵菌と呼ばれる。卵胞子が休眠後発芽すると遊走子嚢が突出し、そこから多数の遊走子が放出される。

分類

基底クレード

フクロカビモドキ目

フクロカビモドキ類 (Olpidiopsidales) は紅藻、または卵菌類の寄生者で、袋状の単細胞葉状体が葉状体の原形質内部に浸って寄生生活を送る。養殖ノリに被害を与える種が知られている。和名学名共に、ツボカビ類に属するフクロカビ(Olpidium)に、全実性の菌体がよく似た姿をとることによる。

ミズカビ類 saprolegnian

最も簡単に観察できる卵菌は、ミズカビ類である。もしも金魚を飼っていれば、水底に沈んだ餌の残りや、産まれた無精卵発生異常などで死んだときなどに、その表面に綿毛のようなものが密生するのを見る機会があるであろう。実験的には淡水中にスルメのかけらやの種子をゆでたものを入れることで、たやすく観察できる。ただし、死んだものに着くものでも、時には弱ったなど生きている生物を攻撃して寄生する場合があり、養殖などに被害を与えることもある。

ミズカビ類の遊走子嚢形成に際して基質から水中に立ち上がる菌糸は基部の直径がしばしば10 μm以上と非常に太く、肉眼でその本数が数えられるほどで、長さも1 cm程度には軽く達する。菌糸先端が区切られて遊走子嚢となり、先端に開いた穴から遊走子が泳ぎだす。遊走子嚢内の遊走子の輪郭がはっきりしてから泳ぎ出すのに数十分程度なので、顕微鏡下で泳ぎ出すのを観察するのは簡単である。

Aphanomyces 属には水生種だけではなく陸上植物寄生種が記録されている。

フハイカビ類 peronosporalean

ツユカビ目の多くは陸上植物の地上部に寄生する絶対寄生菌で、植物にべと病を引き起こすツユカビ科、白さび病を引き起こすシロサビキン科などが知られる。ツユカビ類は、接合菌門ケカビ類に見られるような、宿主から立ち上がった胞子嚢柄の先端に胞子嚢を形成する。この胞子嚢自体がカビの胞子のように飛散して宿主に到達する。この胞子嚢はミズカビの遊走子嚢と相同であり、宿主に到達し、そこに水があると遊走子を放出する。ツユカビ目には二次型遊走子しか見られない。遊走子を放出せず、直接葉状体が発芽するものもあり、いずれにせよ宿主の組織内に侵入し、宿主の細胞内に吸器が差し込まれ、寄生が成立する。

フハイカビ科にも水生種に加えて陸上植物寄生種が数多く知られ、19世紀ジャガイモに壊滅的な被害を与えてアイルランドに大飢饉ジャガイモ飢饉)をもたらした疫病の病原体も卵菌のフハイカビ科に属するエキビョウキン (Phytophthora) である。フハイカビ科では他にフハイカビPythium)、PhytopythiumSclerophthoraに陸上植物に寄生する種がある。

脚注

  1. Nora DOTZLER, Michael KRINGS, Reinhard AGERER, Jean GALTIER, Thomas N. TAYLOR. Combresomyces cornifer gen. sp. nov., an endophytic peronosporomycete in Lepidodendron from the Carboniferous of central France.
  2. Introduction to the Oomycota”. 2012-09-閲覧。
  3. Gordon W. Beakes & Sally L. Glockling & Satoshi Sekimoto (2012). “The evolutionary phylogeny of the oomycete “fungi””. Protoplasma 249: 3–19. doi:10.1007/s00709-011-0269-2.
  4. The evolutionary phylogeny of Oomycetes—insights gained from studies of holocarpic parasites of algae and invertebrates”. 2012年10月25日閲覧。
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