交換法則

初等代数学における交換法則(こうかんほうそく、: commutative law; 可換則交換律[注釈 1])は、与えられた演算の二つの引数を互いに入れ替えても結果が変わらないことを述べる。また交換法則を満足する演算は可換性commutative property; 交換性質)を持つと言う。たとえば自然数に関する足し算掛け算は交換法則を満たしている。

  • 4 + 5 = 5 + 4 (両辺とも値は9である)
  • 2 × 3 = 3 × 2 (両辺とも値は6である)

しかし引き算や割り算はそうではない。

その他に交換法則を満たすものとしては主に次のようなものがある。

また、交換法則を満たさない主要な演算としては次のようなものがある。

ただしベクトルの外積のように絶対値および絶対値に相当する数を考えたときに交換法則は成り立つものも多い。

歴史と語源

可換性の語の初出は1814年発行のフランスの雑誌である。

可換性質の暗黙的な使用は古代にさかのぼる。古代エジプト人は積の計算の簡素化に乗法の可換性を用いている[1][2]し、エウクレイデスが著書『原論』において乗法の可換性を仮定していたことはよく知られている[3]。明示的なかたちで交換法則が立ち現れるのは、数学者により函数論が築かれ始める18世紀後半から19世紀初頭にかけてである。こんにちでは可換性は数学の大部分の分野でよく知られた基本性質として扱われている。

記録上 commutative の語が初めて現れるのはセルヴォワの回顧録(1814年)で[4][5]、現在では可換性と呼ばれる性質を持つ函数を記述するために commutatives の語が用いられている。語義はフランス語で「置き換え」や「入れ替え」を意味する commuter に「傾向がある」ことを意味する接尾辞 -ative が付いたものだから、字面通りに読めば「入れ替えようとするもの」である。

定義と語法

「交換」あるいは「可換」("commutative") という語は(関連はあるが厳密には異なる)いくつかの意味で用いられる[6][7]。「交換法則」や「可換律」のように言うとき、一般的にはそれは二項演算(あるいはより一般に二項関係二変数写像)に結び付けられた性質のことを言うものと理解される。特定の演算を固定して考えるとき、その演算の引数となる二つの元で、交換法則の言う条件式を満足するものに対しては、それらの二元が(与えられた演算のもとで)「交換する」「可換である」(commute) と言い表す。

以下、集合 E 上に二項演算 が定められているものとして:

  • E の二つの元 x, y が演算 のもと(互いに)交換するまたは可換であるとは
    を満たすときに言う。
  • E の任意の二元 x, y が演算 のもと交換するとき、すなわち
    が成り立つとき、演算 交換法則を満足する、または可換であると言う。可換でない演算は非可換 (non-commutative) であると言う。

より一般に、

  • E の二つの部分集合 S, T
    を満足するとき、S, T元ごとに可換 (element-wise commute) であるという。
  • E の二つの部分集合 S, T
    を満足するとき、S, T集合として可換 (commute as set) であるという。[注釈 2]

あるいはまた、

  • 二変数写像 f: A × AX は、どの二元 x, y も交換するとき、すなわち
    が成り立つとき、可換あるいは対称であると言う。
  • 二項関係 R A × B は、どの二元 x, y も交換するとき、すなわち
    が成り立つとき、交換可能あるいは対称であると言う。

交換法則の遍在

群論集合論において、(複数の演算を持つ)さまざまな代数系が、それが持つ特定の演算が交換法則を満足するとき「可換」と呼ばれる。

  • 可換半群は可換で結合的な全域的演算を持つ。
  • 可換半群がさらに単位元を持つという性質を持てば可換モノイドと言う。
  • アーベル群または可換群はその群演算が可換であるようなを言う[8]
  • 可換環はその乗法が可換となるを言う(環の加法は常に可換である)[9]
  • 可換体は加法と乗法がともに可換[10]

それらの分野の結果を利用する他の分野、例えば解析学線型代数学ではよくわかっている演算(例えば、実数や複素数に対する加法乗法)は、いちいち断らなくても暗黙の仮定として証明等の中で縦横に用いられる[11][12]

注釈

  1. 交換性質を満たすことが定理として演繹される場合には「法則」、成り立つことが公理として要請される場合には「律」を使うことが多い。
  2. x と部分集合 S との積や、部分集合 S, T の積(「積集合」)を
    と書くならば、S, T が集合として可換であることを
    ST = TS と書くことができる。元と集合の可換性 xS = Sx も元ごとなのか集合としてなのかで意味が異なる。

出典

  1. Lumpkin 1997, p. 11.
  2. Robins & Shute 1987, p. ?.
  3. O'Conner and Robertson, Real Numbers
  4. Cabillón & Miller, Commutative and Distributive.
  5. O'Conner & Robertson, Servois.
  6. Commutative - PlanetMath.(英語)
  7. Weisstein, Eric W. "Commutative". MathWorld (英語).
  8. Gallian 2006, p. 34.
  9. Gallian 2006, p. 236.
  10. Gallian 2006, p. 250.
  11. Axler 1997, p. 2.
  12. Gallian 2006, pp. 26,34,87.

参考文献

  • Axler, Sheldon (1997). Linear Algebra Done Right, 2e. Springer. ISBN 0-387-98258-2
  • Gallian, Joseph (2006). Contemporary Abstract Algebra, 6e. Boston, Mass.: Houghton Mifflin. ISBN 0-618-51471-6

関連項目

外部リンク

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