カモノハシ

カモノハシ(鴨嘴、Ornithorhynchus anatinus)は、哺乳綱単孔目カモノハシ科カモノハシ属に分類される哺乳類。現生種では本種のみでカモノハシ科カモノハシ属を形成する。

カモノハシ
生息年代: 9–0 Ma
中新世 - 現世
カモノハシ Ornithorhynchus anatinus
保全状況評価
NEAR THREATENED (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[1]
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 原獣亜綱 Prototheria
: 単孔目 Monotremata
: カモノハシ科 Ornithorhynchidae
Gray, 1825
: カモノハシ属 Ornithorhynchus
Blumenbach, 1800
: カモノハシ O. anatinus
学名
Ornithorhynchus anatinus
(Shaw, 1799)
和名
カモノハシ
英名
Duck-billed platypus
Platypus
カモノハシの分布

分布

オーストラリアクイーンズランド州東部、ニューサウスウェールズ州東部、ビクトリア州タスマニア州)。分布域内では、熱帯雨林亜熱帯雨林、ユーカリなどの硬葉樹林、高山地帯などの淡水河川湖沼などに生息している[2]

分類

カモノハシがヨーロッパ人によって最初に発見されたのは1798年のことであり、カモノハシの毛皮やスケッチが第2代ニューサウスウェールズ州総督であったジョン・ハンターにより、グレートブリテン王国へ送られた[3]。イギリスの科学者たちは、当初はこの標本が模造品であると考えていた[4]

1799年にNaturalist's Miscellanyへこの動物について最初に記載をおこなったジョージ・ショーは、「それが本物であることを疑わずにはいられない」と主張し、ロバート・ノックスはアジア人の剥製師による物と信じていた[5]という。誰かがビーバーのような動物の体にカモのくちばしを縫い付けた物であると考えられ、ショーは縫い目がないかを確認するため、毛皮に切り込みを入れた[4]

名称

英語の一般名である“platypus”(プラティパス)はギリシア語で「平たい」を意味する“πλατύς”と「足」を意味する“πους”からなり、「扁平な足」を意味する[6]。ショーは記述に際し、リンネの分類の属名として“platypus”を当てたが、この語はすぐにキクイムシ科の昆虫のPlatypus属につけられていることが分かった[7]ため、1800年にヨハン・ブルーメンバハによってジョゼフから送られた標本に基づき、Ornithorhynchus paradoxus として記述され[8]、後に先取権の原則に従って Ornithorhynchus anatinus と学名がつけられた[7]

Ornithorhynchus anatinus という学名は、ギリシア語で「鳥の口吻」を意味する“ορνιθόρυνχος” (ornithorhynkhos) と、ラテン語で「カモのような」を意味する“anatinus”からなる。

“platypus”の統一された複数形は存在しない。通常、科学者たちは“platypuses”を使うか、単に“platypus”を使用している。口語では“platypi”という語が複数形として使われるが、厳密には間違いであって正確にはギリシア語の複数形では“platypodes”となるはずであり、ラテン語まがいの言語の形を取っている[4]。初期のイギリスからの移民たちは「水モグラ」という意味の“watermole”や「カモのくちばし」を指す“duckbill”、「カモモグラ」を意味する“duckmole”など、様々な名前で呼んでいた[4]。また、カモノハシ類は一種しか現存していないものの、“duck-billed”(カモのくちばし)という形容詞が前につけられ、“Duck-billed Platypus”と呼ばれることがある[9]

形態

全長はオスで最大630mm、メスで最大550mm、尾長は85 - 150mm、体重はオスで1 - 3kg、メスで0.7 - 1.8kg[2][10]。全身には1cm²当たり600本以上の柔らかい体毛が生えている。体毛の色は背面は褐色から茶褐色で、腹面は乳白色である。外側の毛は水を弾き、内側の毛は保温性に優れている。

被毛は一般的な哺乳類と同様であり、一次毛胞の周囲に2つの二次毛胞が付随する毛胞群から形成される特徴を有し、一次毛胞の中心保護毛と1本の下毛とからなる毛束、側部保護毛と数本の下毛からなる毛束が確認できる[11]

名前の通りカモのように幅が広く、ゴムのような弾性のあるくちばしを持ち、外見上の大きな特徴の一つとなっている。このくちばしには鋭敏な神経が通っていて、獲物の生体電流を感知することができる。一方、カモノハシには歯がなく、長らく謎とされてきたが、三重大学などの共同研究チームの調査では、くちばしの向きや電気感覚を脳に伝える三叉神経が発達したために歯の生える空間が奪われ、歯の消滅につながったと考えられている[12][13]

四肢は短く、水掻きが発達している。オスの後脚には蹴爪があり、この蹴爪からは後述のが分泌されている。メスも若い時には後脚に蹴爪があるが、成長の過程で消失する[2]

哺乳類ではあるが乳首は持たず、メスが育児で授乳の際は、腹部にある乳腺から分泌される。

オスの後足に見られる石灰質の蹴爪。ここから毒を分泌する

カモノハシはオスもメスも蹴爪を持って生まれるが、オスのみが毒の混合物を分泌する蹴爪を持っている[14][15][16]。この毒は主にディフェンシンのようなタンパク質類(DPL)で構成されており、その中の三種はカモノハシ特有のものである[17]

このディフェンシンのようなタンパク質はカモノハシの免疫機構により生産されている。イヌのような小動物を殺すのには十分な強さの毒で、ヒトに対しては致死的ではないものの、被害者が無力になるほどの強い痛みがある[17][18]。その痛みは大量のモルヒネを投与しても鎮痛できないほどであるという[19]。毒による浮腫(むくみ)は傷の周囲から急速に広がり、四肢まで徐々に広がっていく。事例研究から得られた情報によると、痛みは持続的な痛みに対して高い感受性を持つ感覚過敏症となり、数日から時には数か月も続くことが指摘されている[20][21]。だが、ヒトがカモノハシの毒で死亡した例は報告されていない[22]。毒はオスの足にある胞状腺で生産されており、この腎臓の形をした胞状腺は後肢の踵骨の蹴爪へ、管によってつながっている。メスのカモノハシは、ハリモグラ類と同じで、未発達の蹴爪の芽があるが、これは発達せずに1歳になる前に脱落し、足の腺は機能を欠いている[7]

毒は哺乳類以外の種によって生産される毒とは異なった機能を持つと考えられている。毒の効果は生命に危険を及ぼすほどではないが、それでも外敵を弱めるには十分な強さである。オスのみが毒を生産し、繁殖期の間に生産量が増すため、この期間に優位性を主張するための攻撃的な武器として使われると考えられている[17]

生態

群れは形成せず単独で生活し、夕方や早朝に活動が最も活発になる薄明薄暮性である。

水中ではを閉じて泳ぐが、くちばしで生体電流を感知し獲物を探す。動かなければ最大で11分ほど水中に潜っていることができるが、通常は1-2分程度である。食性は肉食性で、昆虫類甲殻類貝類ミミズ魚類両生類などを捕食する。

陸上を移動する場合、前足が地面に着く時に水掻きのある指を後ろに折りたたむようにして歩く。

水辺に穴を掘ってにする。巣穴の入り口は水中や土手にあり、さらに水辺の植物などに隠れ、外からはわからないようになっている。

繁殖期は緯度によるが8月から10月である。繁殖形態は哺乳類では非常に珍しい卵生で、巣穴の中で1回に1-3個の卵を産む。卵の大きさは約17mmで、卵殻は弾性がありかつ粘り気のある物質で覆われている。卵はメスが抱卵し、約10-12日で孵化する。子供はくちばしの先端に卵嘴を持ち、卵嘴を使用して卵殻を割って出てくる。成体の4分の3程度の大きさになるまでに離乳し、約4か月で独立する。

メスは約2年で成熟する[2]。寿命は最大で21年[2]

種の保存状態

NEAR THREATENED (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[1]

人間との関係

日本国内の動物園で飼育された事例はない。また、1996年に東京都で行われる予定であった「世界都市博覧会」で展示の誘致を行っていたが、都市博中止以前の段階でオーストラリア政府の許可が得られなかったため、中止となった。

オーストラリアの動物園では、ビクトリア州にあるヒールズビル自然保護区クイーンズランド州にあるローンパインコアラ保護区などで飼育されているカモノハシを見ることができる。

ギャラリー

脚注

  1. Woinarski, J. & Burbidge, A.A. 2016. Ornithorhynchus anatinus. In: IUCN 2017. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2017.3.
  2. Cath Jones and Steve Parish, Field Guide to Australian Mammals, Steve Parish Publishing, ,ISBN 1-74021-743-8
  3. Brian K. Hall (1999-03). “The Paradoxical Platypus”. BioScience (American Institute of Biological Sciences) 49 (3): 211–218. doi:10.2307/1313511. http://jstor.org/stable/1313511.
  4. Platypus facts file”. Australian Platypus Conservancy. 2006年9月13日閲覧。
  5. Duck-billed Platypus”. Museum of hoaxes. 2008年4月2日閲覧。
  6. Liddell & Scott (1980). Greek-English Lexicon, Abridged Edition. Oxford University Press, Oxford, UK. ISBN 0-19-910207-4
  7. J.R.Grant. Fauna of Australia chap.16 vol.1b”. Australian Biological Resources Study (ABRS). 2006年9月13日閲覧。
  8. Platypus Paradoxes”. National Library of Australia (2001–08). 2006年9月14日閲覧。
  9. The Platypus”. Department of Anatomy & Physiology, University of Tasmania (1997年7月3日). 2006年8月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年9月14日閲覧。
  10. ANIMAL, David Burnie, Dorling Kindersley, 2006, ISBN 9781740335782
  11. EDWARD B. POULTON (1894). “The Structure of the Bill and Hairs of Ornithorhynchus paradoxus; with a Discussion of the Homologies and Origin of Mammalian Hair”. J Cell Sc. s2-36: 143-199.
  12. “三重大、カモノハシ研究 歯の消滅を解明 くちばし神経が発達”. 伊勢新聞. (2016年11月30日). http://www.isenp.co.jp/news/20161130/news01.htm 2016年12月3日閲覧。
  13. Masakazu Asahara, et al., "Comparative cranial morphology in living and extinct platypuses -- Feeding behavior, electroreception, and loss of teeth", Science Advances, Vol.2, No.10, American Association for the Advancement of Science, October 12, 2016.
  14. Australian Fauna”. Australian Fauna. 2010年5月14日閲覧。
  15. The University of Sydney”. Usyd.edu.au (2008年5月8日). 2010年5月14日閲覧。
  16. Rainforest Australia”. Rainforest Australia. 2010年5月14日閲覧。
  17. Gerritsen, Vivienne Baillie (2002-12). “Platypus poison”. Protein Spotlight (29). http://www.expasy.org/spotlight/back_issues/sptlt029.shtml 2006年9月14日閲覧。.
  18. Evolution of platypus venom revealed CosmosJuly 4, 2007
  19. クリスティー・ウィルコックス 『毒々生物の奇妙な進化』(垂水雄二訳、文藝春秋、2017)
  20. G. M. de Plater, P. J. Milburn and R. L. Martin (2001-03-01). “Venom From the Platypus, Ornithorhynchus anatinus, Induces a Calcium-Dependent Current in Cultured Dorsal Root Ganglion Cells”. Journal of Neurophysiology (American Physiological Society) 85 (3): 1340–1345. PMID 11248005. http://jn.physiology.org/cgi/reprint/85/3/1340.
  21. The venom of the platypus (Ornithorhynchus anatinus)”. 2006年9月13日閲覧。
  22. The venom of the platypus(Ornithorhynchus anatinus)”. 2009年4月16日閲覧。

参考文献

  • Cath Jones and Steve Parish, Field Guide to Australian Mammals, Steve Parish Publishing, ,ISBN 1-74021-743-8
  • ANIMAL, David Burnie, Dorling Kindersley, 2006, ISBN 9781740335782
  • 浅原正和『カモノハシの博物誌――ふしぎな哺乳類の進化と発見の物語』技術評論社、2020年。ISBN 9784297115128
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