アンチモン

アンチモン: Antimon [antiˈmoːn]: antimony [ˈæntɨmɵni]: stibium)は原子番号51の元素元素記号Sb。常温、常圧で安定なのは灰色アンチモンで、銀白色の金属光沢のある硬くて脆い半金属固体炎色反応は淡青色(淡紫色)である。レアメタルの一種。

スズ アンチモン テルル
As

Sb

Bi
51Sb
外見
銀白色
一般特性
名称, 記号, 番号 アンチモン, Sb, 51
分類 半金属
, 周期, ブロック 15, 5, p
原子量 121.760(1) 
電子配置 [Kr] 4d10 5s2 5p3
電子殻 2, 8, 18, 18, 5(画像)
物理特性
固体
密度室温付近) 6.697 g/cm3
融点での液体密度 6.53 g/cm3
融点 903.78 K, 630.63 °C, 1167.13 °F
沸点 1860 K, 1587 °C, 2889 °F
融解熱 19.79 kJ/mol
蒸発熱 193.43 kJ/mol
熱容量 (25 °C) 25.23 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 807 876 1011 1219 1491 1858
原子特性
酸化数 5, 3, -3
電気陰性度 2.05(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 第1: 834 kJ/mol
第2: 1594.9 kJ/mol
第3: 2440 kJ/mol
原子半径 140 pm
共有結合半径 139±5 pm
ファンデルワールス半径 206 pm
その他
結晶構造 三方晶系
磁性 反磁性[1]
電気抵抗率 (20 °C) 417 nΩ·m
熱伝導率 (300 K) 24.4 W/(m·K)
熱膨張率 (25 °C) 11 µm/(m·K)
音の伝わる速さ
(微細ロッド)
(20 °C) 3420 m/s
ヤング率 55 GPa
剛性率 20 GPa
体積弾性率 42 GPa
モース硬度 3.0
ブリネル硬度 294 MPa
CAS登録番号 7440-36-0
主な同位体
詳細はアンチモンの同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
121Sb 57.36% 中性子70個で安定
123Sb 42.64% 中性子72個で安定
125Sb syn 2.7582 y β- 0.767 125Te

なお、日本語でアンチモニーと呼ばれる場合、この元素(英語名)を指す場合とこの元素を含む合金の一種(後述)を指す場合がある[2]

名称

「ある修道会でにアンチモンを与えたら(駆虫薬として働き)豚は丸々と太った。そこで栄養失調の修道士に与えたところ、太るどころではなく死んでしまった。それゆえアンチ・モンク(修道士に抗する)という名が与えられた」という逸話がある。ウァレンティウスがアンチモンの語をはじめて著したが、この修道士がウァレンティウスとするならばドイツ語ではなくフランス語の「モンク」を用いて命名するのは不自然である。

実際には11世紀頃にアラビアより錬金術が伝わった際にすでにアンチモンにアラビア語の名が与えられていたので、「アンチモン」という語の語源はアラビア語に由来すると考えられている。

ギリシャ語で「孤独嫌い」を意味する anti-monos が由来とする説もある(単体で見つからないからという)。

日本では、英語の読み方を採用してアンチモニー(安質母尼)と表記されている事もある(合金としてのアンチモニーについては後述)。

元素記号の Sb は輝安鉱三硫化二アンチモン、Sb2S3)を意味するラテン語 Stibium から取られている。

歴史

アンチモン化合物は古代より顔料化粧品)として利用され、最古のものでは有史前のアフリカで利用されていた痕跡が残っている。

西洋史においてはドイツエルフルトベネディクト会修道院長、医師、錬金術師であるバシリウス・ウァレンティウスが著したとされる『太古の偉大なる石』『自然・超自然の存在』『オカルト哲学』『アンチモン凱旋車』など「ヴァレンティヌス文書」にアンチモンの記述が見出される[3]。しかし、ベネディクト会の記録にはバシリウス・ウァレンティウスが存在したという記録はない。また、16世紀にテューリンゲンの参事官かつ製塩業者であるヨハン・テルデが編纂出版しているが、実際にはウァレンティウスは存在せず彼の著作であるという説がある。

『アンチモンの凱旋車』でワインより生じる「星状レグレス」と呼ばれる結晶が記述されているが、これは酒石酸アンチモンの結晶であると推定される。またアンチモンの毒性について「ヴァレンティヌス文書」で述べられている。

日本最古の銅銭である富本銭(683年頃)に、アンチモンが銅の融解温度を下げ鋳造を易しくするとともに、完成品の強度を上げるために添加されている。

産地

中国湖南省が世界の主産地で、他に広東省貴州省などにも輝安鉱の鉱山がある。最大の鉱山は湖南省の錫鉱山であるが、その名が示す通り、昔はスズと混同されていた。なお、中国語方言では、アルミニウムをアンチモンやスズと混同して呼ぶ例も見られる。

日本において本格的に採掘が開始されたのは明治時代以降である。愛媛県市ノ川鉱山兵庫県中瀬鉱山(金山として開発され、第二次世界大戦後にアンチモンが主力となった)、山口県鹿野鉱山等が開発された。とくに市ノ川鉱山は美晶の輝安鉱が産出されることが海外にも知られ、製錬所も建設された。しかし、資源枯渇や生産コストの問題から現在は全て輸入となっている。また、鉱石による輸入は1990年代に終了し、全量が地金及び地金屑、あるいは三酸化アンチモン等化合物による輸入である。

2011年5月、鹿児島湾の海底で総量約90万トンと推定されるアンチモンの鉱床が、岡山大学東京大学九州大学らの研究グループにより発見されたと報道された。2010年の日本国内販売量約5千トンから計算すると、約180年分がまかなえる量[4][5][6]

トン構成比
中国120,93778.3
ロシア10,0006.5
ボリビア5,0523.3
タジキスタン3,9452.6
ミャンマー3,8362.5
オーストラリア3,2752.1
南アフリカ2,6151.7
7か国小計149,66096.9
世界合計154,3978100.0
産出国 出典:[7]

用途

工業材料として多岐にわたる用途に用いられているが、人体に対して毒性の疑いがある(化合物の多くが刺激性のある劇物)ことから、代替素材の開発が進み、徐々に使用が控えられる傾向にある。

アンチモン地金は正方形に作られることが多く、上方に輝安鉱のようなシダ状の凸凹模様ができる。これは「スターマーク」と言い、純度の高い物ほど、この模様がはっきりと現れる。

もろい金属のため合金として用いられ、16世紀には活字活字合金)に用いられていた[2]

毒性

ヴァレンティヌス文書」などを始め古典的著作には毒性が認められてきた元素である。広く使われてきた結果、自然界への蓄積が進み、無視できないレベルに達していると指摘する識者もいる

急性アンチモン中毒の症状は、著しい体重の減少、脱毛、皮膚の乾燥、鱗片状の皮膚である。また、血液学的所見では好酸球の増加が、病理的所見では心臓、肝臓、腎臓に急性のうっ血が認められる[8]。このほか、アンチモン化合物は、皮膚粘膜への刺激性を有するものが多く、日本では毒物及び劇物取締法及び毒物及び劇物指定令によりアンチモン化合物及びこれを含有する製剤は硫化アンチモンなど一部の例外[9]を除いて劇物に指定されている。

化合物

同位体

アンチモニー

日本語でアンチモニーと呼ばれる場合、この元素(英語名)ではなくこの元素を含む合金の一種を指す場合がある[2]

合金としてのアンチモニーは、80%〜90%、アンチモン10%〜20%、このほか用途により(スズ)を少々混ぜた合金のことをいう[2]。合金としてのアンチモニーの地金を鋳造加工した製品をアンチモニー製品、その産業をアンチモニー産業という[2]

合金としてのアンチモニーは鋳物表面(鋳肌)が平滑で、冷却後の収縮が少なく、メッキの乗りも良いといった特性がある[2]。小皿、優勝カップ、トロフィー、メダルなどに利用される[2]

脚注

  1. Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
  2. 松野建一、丹治明. アンチモニー産業の歴史と生産技術 - 外貨獲得に貢献した東京の地場産業 -”. 一般財団法人素形材センター. 2021年1月10日閲覧。
  3. with Twelve Keys and appendix,Basil Valentine,1400~1600?
  4. 鹿児島湾でレアメタル発見 国内販売量の180年分 朝日新聞 2011年5月15日
  5. 鹿児島湾奥部海底に有望なレアメタル鉱床を確認 岡山大学 2011年4月19日
  6. アンチモン鉱床が日本近海底で存在確認される 「日本資源貿易の将来像」 国際資源産業・資源貿易研究 :武上研究室 2011年4月25日
  7. 鉱物資源マテリアルフロー2014 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC) (PDF)
  8. HACCP関連情報データベース 化学的・物理的危害要因情報 財団法人食品産業センター
  9. 4-アセトキシフエニルジメチルスルホニウム=ヘキサフルオロアンチモネート及びこれを含有する製剤、アンチモン酸ナトリウム及びこれを含有する製剤、酸化アンチモン(III)を含有する製剤、酸化アンチモン(V)及びこれを含有する製剤、硫化アンチモン及びこれを含有する製剤を除く。

関連項目

外部リンク

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